COLUMN


vol.27「さらばあかし湯」



「あかし湯閉店するらしいよ?」
そう聞いたのは11月の下旬。
銭湯好きなAさんと銭湯談義をしている最中に、俺はあかし湯の閉店を知らされた。
あかし湯
大阪市中央区東心斎橋2-2-17に位置する老舗の銭湯。
大阪ミナミの飲み屋街に煌々と佇む都会のオアシス。
心斎橋、なんば、日本橋、どの駅からも10分前後で行ける立地の良さで、他の銭湯と比べても際立って訳ありと思しき客層が集まっていた。
umbrellaはかつて東心斎橋2丁目にあった心斎橋club ALIVE!というライブハウスに世話になり面倒を見てもらい、バンド練習やミーティング、打ち上げ等で夜中までアライブにいることが珍しくなかった。
そんな時は決まってあかし湯に行って1日の疲れをリセットした。
番台にはいつもご主人かお母さんが座っていて、一言二言の会話を交わした。
島之内にある銭湯がボイラーの故障で閉店したらしいですよ、と交わした会話を思い出した。
ボイラーの故障は銭湯にとって命取り。
風呂なしの家がこれだけ珍しいこの時代に、銭湯に行くという行為が必要とされなくなってきた。
俺自身も何故銭湯に行くのかと聞かれると、「好きだから」と答えるしかない。残念ながら決して生活に必要な行為ではないのだ。
あの頃はあかし湯に閉店なんて無縁だと思っていたが、あの場所からあかし湯が無くなるなんて本当に信じられない。
閉店の報せを聞いてすぐあかし湯に行った。


券売機の上の貼り紙に店主直筆の言葉が書かれてあった。
潔い言葉で綴られた感謝の気持ちに胸が締め付けられる。
自分さえ良ければ良いという人間も多い中、このように地域貢献も意識した言葉が書ける店主の気遣いには、何十年とミナミを見てきた男の逞しさを見た。
俺もこれからの人生に於いて、必ず終わりを経験する。その時にこの貼り紙を思い出すだろう。
引き戸を開けると、いつものあかし湯の脱衣所があった。
据置の業務用エアコンにボロボロのドライヤー、見たことない型のマッサージチェア、レトロというと聞こえは良いが、冷静に見るとかなり老朽化は進んでいた。
先日来た時に、修繕されたトイレに驚いたばかりだった。
あかし湯のトイレ前は、以前はガラスで外から丸見えだった。ミナミの街に全裸を曝け出す危険があるのでトイレの前のロッカーは使わないようにしていた。
あかし湯のシャワー温度はいつもバラついていた。
熱すぎる日はどの銭湯より熱く、ぬるい日はとてつもなくぬるい。
あかし湯の閉店を知った後に浴びたシャワーはどことなく湯圧が低かった。
俺にはそれが、ミナミという街全体がこぼした涙に思えた。
最初にあかし湯に行ったときのことを思い出した。
アライブでバンド練習をした後に1人で風呂に入りに訪れた。
風呂から上がるとテレビのスポーツニュースを見て「ソフトバンクは強いなぁ」とおじさんたちが話していた。
そのうちの1人が俺の体をジロジロ見てやめなかった。
イチモツにでっかい輪っかを装着した恐ろしい風貌で、違和感を感じながら
「長髪が珍しいのかな」
とそそくさと着替え、徒歩3分の距離にあるスーパーでビールを買おうと外に出た。
すると、その男が後をついてきた。
ああ、怖いなという思いと、人を疑ってはいけないという良心が葛藤したが、結局スーパーまで後をつけられて、帰ってくれなかったのでアライブへ逃げ込んだ。
アライブは道から逸れたバンドたちの駆け込み寺のような存在だった為、チワワのように震える俺を温かく受け入れてくれた。
真相は謎だったが、ソフトバンクが勝ったというニュースを見るたびに「ソフトバンクは強いんだよな、知ってるぞ」とあの夜を思い出す。

昼には昼の顔があった。
昼の銭湯は贅沢だ。1日の終わりとしてではなく夜へ向けて入る大浴場は気持ちを切り替えるスイッチになった。
ある日電気風呂に入ってる男に声をかけられたことがある。
全身和彫の刺青が入ったその男は「この前ジュース奢ったよね?」と声をかけてきた。
「いえ、人違いじゃないですか?」と答えるも
「え〜、忘れちゃったの?奢ったじゃない」と食い下がった。
「いつもこの時間に来てるよね?」
と聞かれたので
「いえ、いつも夜中に来てます」
と答えても
「え〜本当に〜??」
と軽々しく俺を疑った。
男は自分の腕をプチプチとつまんではなにかを捨てるそぶりを見せた。
電気風呂のビリビリとした感触が気になるのかなと思ったが、
「虫がね、虫がいるんだよ」
と見えない虫を取り続けた。
薬物中毒か何かだろうと怖くなり顔を背けた。
その時初めて、昼間のあかし湯の窓から見える空を見た。
この都会のビル街でこんなに青い空があったのかと気付いた。
あかし湯の窓から見える空は平等に青い。
優秀な姉と小さい頃から比較され、出来損ない扱いされてきた俺にとって、サラリーマンでも学生でも、薬物中毒でもバンドマンでも平等に青い空が見えるあの空間がとても心地よかった。
本日あかし湯最終日12月26日、この1ヶ月間何度もあかし湯に足を運んだ。
お父さんに「今までありがとうございました」とお礼を言うと、「ごめんね」と寂しそうに言った。
「あかし湯って書いたタオル売ってもらえませんか?」
と聞くと「待っとってや、一個あげるわ」と新品のタオルを譲ってくれた。

「ごめんね」なんて、謝らなくていいのに、俺は感謝しかないんだから、と急に閉店が現実味を帯びてきて、悲しくなった。
その日もシャワーの湯圧は弱かった。
入浴客が皆俯いていた。
今俺はあかし湯へ最後の入浴へ向かった。

下駄箱は26番(フロ)というのも俺のあかし湯ルール。
26番とも今日でお別れかと思うと悲しく辛い。
閉店ということもあり、店内はいつもより人が多く、その分ボイラーも湯切れしてシャワーから水に近い湯が出ていた。
「長い間お疲れ様でした。」
心でそう唱えながら六種ある風呂に一つ一つ入っていく。


赤外線風呂
きっと上に白熱灯をつけてるだけなんだけど、ポカポカして全ての病気が治りそうな気になるよな。
冷えは万病のもと、つまり銭湯は万健康のもとなのである。
名前のついてないちょい熱な風呂
いつもこの浴槽からのスタートだった気がする。
俺を一番受け止めてくれた風呂。
家族愛に飢えた俺には、親よりも包み込んでくれたこの浴槽。涙は湯船で誤魔化せるから、ここではいくらでも泣いていいんだ。
寝風呂
仰向けに寝ながら気泡を受け止める風呂。
俺が知る疲労回復の頂点はここ、東心斎橋あかし湯の寝風呂なんだ。
泡風呂
いわゆるジェットバス。
男はみんなこれが家に欲しくて仕方ないんだ。GTOの内山田を見てもわかるように、教頭にまで上り詰めて初めて持てるのがジャグジー。
それを業務用ハイパワーで堪能できるのが銭湯。
電気風呂
今夜もビリビリとシビれさせてくれたね。
虫一匹いない綺麗な湯船だったぜ。
そして水風呂
あかし湯で水風呂の入り方を学んだ。
冷たいと感じる前に入ってしまうという俺なりのセオリーを学び、水風呂の気持ちよさを教えてくれた。
陶器のライオンの口から勢いよく出る水は俺の体をキュッと引き締め、疲れを取ってくれた。
風呂から出て熱々の体をコーヒー牛乳で冷やそうと思ったが、牛乳類は売り切れ。
代わりにスーパードライを2缶。
五臓六腑に染み渡り、完全に俺の中の水分が明石湯に由来した。
暖簾をくぐり外に出ると冷たい風が吹いていた。
あかし湯の終わりは冬の訪れを実感させた。
この一年、コロナウイルスによる沢山のお店の閉店、バンドの解散、引退の報せを耳にした。
俺が暗く悲しくてはフアンに夢を与えられないと、常に前向きな姿を見せたいと思い、心で泣いていてもそういったことに触れないでいることが多かった。しかし、あかし湯のことは書かずにはいられなかった。
帰り道であかし湯のご主人とお話しが出来、お礼を伝えた。
今後のこともお話してくれた。
最後にまたタオルをもらった。
東心斎橋でバンド活動をして、あかし湯で多くの時間を過ごせたことが本当にありがたく思えた。
あかし湯の皆さん、71年間本当にお疲れ様でした。
皆様お体に気を付けて元気にお過ごし下さい。
合掌
BACK NUMBER
RELEASE
2020年11月23日(月) Release
umbrella 1st Mini Album セルフカバー集『アマヤドリ(Re:arrange side)』

¥2500 (+Tax) / 配信及び通販&LIVE会場限定販売
[予約購入]
※送料無料
[CD]
01.アマヤドリ
02.レイニングレター
03.「シェルター」
04.「月」
05.黒猫が通る
06.レクイエム
07.構想日記
[予約購入]
※送料無料
[CD]
01.アマヤドリ
02.レイニングレター
03.「シェルター」
04.「月」
05.黒猫が通る
06.レクイエム
07.構想日記
LIVE INFORMATION
humbrella 10-11th Anniversary ONEMAN【Chapter.10-11】
「長い雨の日々、全ての心に傘を差す」
「長い雨の日々、全ての心に傘を差す」
2021年3月14日(日) 味園ユニバース
OPEN 17:00 / START 17:30
前売 ¥4,000 / 当日 ¥4,500(入場時ドリンク代別途)
[出演] umbrella
[チケット]
①2020/3/14公演
チケットデリ先行予約チケット→受付終了
②2020/3/14公演
物販手売りチケット→販売終了
③2020/3/14公演
e+→受付終了
④2021/3/14公演
チケットデリ先行予約チケット
[受付期間]
2020/11/23(月・祝) 21:00~11/30(月) 23:59
[抽選結果確認・お支払期間]
2020/12/2(水) 12:00~12/10(木) 23:59
[受付URL]
https://ticket.deli-a.jp/
※抽選受付となります。受付期間内にお申込み下さい。
※初めてBARKS×TICKET DELIを利用される場合は新規会員登録(無料)が必要です。ご利用ガイドをご確認の上、お申込みください。
⑤2021/3/14公演
e+ (12/5〜発売)
⑥バンド予約:予約
⑦当日券
[詳細]
https://xxumbrellaxx.com/news/332283
umbrella PROFILE

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Bass:春 -Hal-
Birth:04.30
Blood:B
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Drums:将 -Sho-
Birth:02.23
Blood:O
-
Vocal:唯 -Yui-
Birth:02.19
Blood:B
-
Guitar:柊 -Shu-
Birth:07.26
Blood:B